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蝉時雨

ルキンフォー

みつけてください
みつめてください
だきしめてください
それだけで、いいんです

それ以上を求めることは考えられない
その先の行為は何を指すものなのかも想像がつかない


レスキューが会話をする
繋いだロープ、カナビラ、腕、体温
なにがこれ以上の意思伝達手段を図ることができるのか

潮のにおいとネイビーのシャツの記憶が交錯する
砂利が海水を限りなく透過して濁りない世界をつくりだす
おおよそ澄んだ水のレンズ越しに、あなたがうつる
淀みない横顔はこちらを向くことはない
ああ、キレイだ


「知っているか、シマ」
潮の匂いの大半は、プランクトンの死骸の腐敗臭と
汚染物同士の化学反応でできているんだそうだ

「そう、なんですか」
この匂いは目に見えぬ存在から俺らへのラストメッセージですね
なにを伝えたいんかは、さっぱりやけど


目に見えぬおもいを風に乗せ
最後の最後にあの人に届くように願いを込めて
迷惑がるかな、気持ち悪がるかな、そんなことはどうでもいい

その時は、俺が死んでる時やもん

俺が死に腐り、彼が忘れたころに潮のにおいにかえて届くようにと
誰も傷つかず気づかずひっそりと自己満足させてほしいと
(それこそえらいタチ悪いけどな)
でも、真剣におもうよ

(このきもちにウソはない)
(けどこのきもちに自信はない)
(伝わらきらないのはいやだ)
(けど気づかれなくない)
(嫌われたくないから)
(でも傍においてほしい)
(こわい)
(俺は、こわい)

それはかなうことのないはなし
俺とあの人は、絶対に生きてかえると約束しているから
どうしてどうしてどうして、その思いを踏みにじることができるのか
優先順位、いや、対等に考えることすらおこがましい
だから一生、死ぬまで、この濁ったおもいは深く海の底に
それで俺はいいと思う


だってはじめから知ってる
願うべきことでも、願ってかなうべきことでも、ないこと
だから小さな声で、誰にも、自分にも聞こえないように、いう


「まだ、傍にいさせてください」


誰にも聞こえないように、風にのせる



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